2010 05 09

ヤンデレオトヒメ

昔話に勝手な味付けをするのも、意外に楽しいものだな。

ここにいれば毎日楽しいことばかりなのに、故郷に帰りたいだなんて、いったい太郎様はどうされたのでしょう。 病気でしょうか。 そうかもしれません。 いつだったか、新鮮な刺身が食べたいと仰る太郎様のために、余興も兼ねて鯛を目の前で調理して差し上げたときも、随分と青い顔をされていましたし。

そういえば、あの鯛をお召し上がりになられてから、一段と様子がおかしくなられたのでした。 鯛の所為? あの鯛、卑しい踊り子のくせに、いつも太郎様に色目を使っていましたからね。 性根同様に肉にも毒があったのかもしれません。 太郎様が戻られたら、今度は鮃を差し上げましょうか。 鮃は不細工ぞろいですが、踊り子としては鯛より上ですし、味も鯛に劣らないでしょう。 優しい太郎様は、不細工な鮃にも優しい言葉をかけてくださっていましたし、今度は喜んで頂けるのではないでしょうか。

太郎様は、もう玉手箱を開けてくださったのでしょうか。 早く玉手箱を開けて、私のことを思い出してください。 ここが一番楽しい場所なのだと。 他に居場所など無いのだと。 太郎様。 太郎様はそちらでは、誰一人知る人もなく、何一つ出来ないのですよ。 太郎様には私だけなのですよ。 そして私も、太郎様だけなのですよ。

そんな乙姫の浦島太郎。

ところで、今更の疑問なんだが、乙姫ってのは名前だろうか。 それとも、二番目の姫ってことだろうか。 個人的には、二番目の姫の方がいいかな。 話に入り易くて。

才色兼備で社交的で優しくて誰からも好かれているお姉様。 そんなお姉様を、物陰から眺めるだけの私。 お姉様からは、色んな集まりによく誘われるのだけれど、一緒にいると自分が惨めになってしまうだけって判ってるから、私は行かない。 そんな私に声をかけるのは、それが仕事だから仕方ないお付きの者か、第二王女という肩書きが目当ての者ばかり。 唯一心を許せるのは、子供の頃から傍にいてくれた亀だけ。

その亀が、或る日、地上から浦島太郎という若者を連れてきた。 海底のこの王国とは全く異なる価値観を持つ彼は、何の打算も畏れもなく、私に言った。

「貴女は美しい」

その一言が私を狂わせる。

「本当に?」

「本当に。 これまでに見た誰よりも」

「お姉様よりも?」

「お姉様よりも、ずっと」

ずっと求めて得られなかったものだからこそ、一度手にしたら手放さない。 手放せない。

「そう、それなら貴方は、ずっと私の傍に…」

そんな感じで。 うん、なかなか昔話らしくなってきたな。

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紫蘭

紫蘭(シラン)。 名前は紫の蘭だが、白一色のもあるんだね。 初めて見た。 紫のに並んで、数株ほど白いのが咲いていた。

甘野老

甘野老(アマドコロ)。 百草園の丘陵公園の端っこに生えていた。 茎を食べると甘いらしい。 これも初めて見た。

紫鷺苔

紫鷺苔(ムラサキサギゴケ)。 初めて見たと思うのだが、全く珍しくない花らしい。 そんなのばっかりだな。