2017 01 29

毒にも薬にも

天気がいいので散歩に出かけたのだが、父がどうも風邪っぽいので早めに切り上げた帰り道。 いつも行く薬局で風邪薬を買った。

以前、俺が風邪をひいた時に買った粉薬が死ぬ程不味くて、それだけは今後絶対に買わないと決めている。 良薬は口に苦しというが、限度ってものがあるだろう。 そこまで不味いのに大して効く訳でもなく、しかも風邪薬の後味で気分が悪くなるとか、あれはもう薬じゃなくて毒だ。

自分が飲むものじゃないとしてもアレは無いだろうと避けて、しかしそれ以外に特にこだわりは無いので、一番手前にあったものを手にしてレジに行ったのだが。

「緑内障の治療はされてないですか?」

薬を受け取った薬剤師はちらっと箱の裏を見て、後ろのベンチに座っていた父を見て、一瞬考えてから問いかけてきた。

「ちょうど治療中ですね」

「この風邪薬は眼圧を上げる副作用が出る場合があるので、緑内障の方にはお勧めできまないんですよ」

「え? そうなんですか?」

「はい、ここにも注意書きが」

「あ、本当だ。 じゃあどれがいいですかね。 とりあえず風邪薬が欲しいんですけど」

「症状はどんな感じですか?」

「鼻水と咳ですね。 熱は無いようです」

「あー、鼻水に対する作用が眼圧を上げることになるんですよ」

「そうですか。 じゃあ咳だけの方が良さそうですね」

「それだと…えーと…これなんかどうでしょう?」

差し出された箱には咳と痰に対する効能が謳われていた。

緑内障の治療(というか現状維持)で眼科に通っているのだが、そこの処方箋はいつもこの薬局に持ってくる。 それで父を覚えていたのか、それとも単に老人だから緑内障の可能性が高いと考えてのことなのかは判らないが、ちらっと見ただけでこうしたアドバイスが出てくることにちょっと感動した。 これぞプロフェッショナルって感じで。

俺もジャンルこそ違うがプロの端くれだし、ちょっと頑張ろうって気になったよ。

そうそう、頑張るで思い出したのだが、ちょっと前に 「認知症とどう付き合うか」 といった番組を見た。

その番組で解説していた人が、何度も同じことを訊かれた場合にどう対処すればいいかと聞かれて、

その度ににっこり笑って答えるのが、認知症の人にも介護する人にも一番楽な方法です。

と答えていた。

「何か話しかけた時、いきなり強い口調で『しつこい!』とか言われたらどんな気持ちになりますか?」

「それはショックだし、悲しくなると思います」

「認知症の人はそんな気持ちになっているんですよ」

だそうで、認知症の人がどういった世界にいるかを理解すれば、いつもにっこり笑って答えられるようになるらしい。

俺には、認知症の研究ばかりでその周囲にいる人の研究を疎かにしているからこんなことが言えるとしか思えないけどね。 或いはこいつが呆けているのか。

理解することはできても、それで感情が追いつくってものでもないだろう。 理解はできるが、それでもやっぱり苛々するのはしょうがない。 それを理解不足のように言われると、余計苛立つってものだ。

とまあ見ていて苛々していたのだが、冷静に考えてみれば、俺だって子供の頃は散々父に迷惑をかけてるんだよな。 子供特有のしつこさで、きっと何度も同じことを訊いたりしてるのだ。

これを因果応報とか自業自得とかいうのは何か違う気がするが、そんな時があったから今があるんだよな。 途中、楽しいことだって確かにあったのだ。 だからまあ、こっちも程々に頑張ろう。