2017 06 06

バベルの塔

東京都美術館でやっているバベルの塔展を見てきた。

ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展

16世紀ネーデルラントの至宝 -ボスを超えて-

という展覧会のタイトル&サブタイトルから察する通り、ヒエロニムス・ボスとピーテル・ブリューゲルの2大看板。 去年からボスの名前をよく聞くと思ったら、2016年がちょうど没後500年だった。 この展覧会も、そんな流れに乗ったものなんだろう。

そんなボスとブリューゲルだが、どちらも油彩の作品はほとんど残ってないのだそうだ。 展覧会の資料によると、ボスは25点でブリューゲルは40点ちょっと。 確かに少ない。 本物を見れる機会は貴重なんだろう。 版画は結構たくさんあるようだが。

展示は、だいたい時代の流れに沿った形。 ボス登場前の風景画がジャンルとして確立される頃から、ボスの登場、ボスのフォロワーの隆盛、そして最後にバベルの塔。

序盤は人物画が多かった。 主に聖母子像。 この時代の形式にがっちりはまったものばかりで、母も子もだいたい邪悪な雰囲気だったりする。 オランダ絵画の暗い雰囲気も相俟って、邪悪さもより一層。

同時代のイタリアの絵は、もう少し明るくて健康的な感じが多い気がする。 オランダの作品に暗いのが多いのは、やっぱりその地の雰囲気がでるのだろうか。 そういえば、何年か前に見たロシアの聖母子像は暗いのを通り越して病んでる感じだったな。

描かれている人の顔は、なんとなくモンゴルが入っている感じのものが多い。 イタリアへの対抗意識であえてそうしたのか、当時のオランダ人がそんな顔だったのか、単に下手でそうなってしまったのか、今の俺には判るはずもないが。 連れのお嬢さんも同じ印象だったようだが、モンゴルはむしろ好感触だったらしい。 目が離れているキリストが良い感じなんだそうだ。

顔に比べると、衣装は格段に緻密で綺麗。 中でも大きな二対の絵 枝葉の刺繍の画家 に描かれていた服の刺繍が良い感じだった。 この刺繍の柄が、この後のボスやブリューゲルの化け物とちょっと繋がっている気がする。 なんか根っこのところに同じ感性があるような。 まあ、同じ展覧会で見たからそう思うだけなのかもしれないが。

そしてバベルの塔。

意外に小さい。

展覧会の構成は、実物を見るまでに拡大版を何度も見せるようになっている。 その拡大版が拡大してなお細かいので、なんとなく大きな絵なんだろうと想像していたのだが、その想像よりは二回りぐらい小さかった。 想像より小さいというだけで、決して絶対的に小さい絵じゃないんだけど、見たときの印象は 「あ、こんなものか」 という感じ。

しかし、いや、だからこそ、なのかもしれないが 「このサイズにあれが詰まってるのか?」 という驚きも大きい。 事前に 「こんなのが描かれているよ」 というアピールが無かったら見落としていただろう細かい描き込みが結構あった。

ということで、事前に拡大版が目に入るようになっているのは、期待を高めるための演出なら失敗だが、見たときの驚きを強くするためなら成功なんだろう。 でも事前にあんまりたくさん見せられると、実物を見る前にもう見てしまった気になるんだよな。 できればもう少し控え目にしてもらいたいものだ。 頑張るならもっと他の方向で頑張ってくれ。

と思ったら他の方向でも頑張っていた。 絵から3次元モデルを起こしてのCGのバベルの塔が凄く良い出来だった。 しかも動く。 滑車にぶらさがった資材が塔の壁を登る。 滑車を動かすための車輪が回る。 車輪の動力となっている中の人が歩く。 運ばれる資材から何かちょっと溢れたりもする。 芸が細かい。

見ているうちに、回し車の中で走っているうちに勢いがつきすぎて吹っ飛んでいくハムスターの動画を思い出した。 実際にバベルの塔があったとして、その建設現場があの絵の通りだったなら。 何かの故障で滑車が暴走して、そこにつながる車輪が高速回転して、車輪の中の人が吹っ飛ぶなんて事故もあったことだろう。

バベルの塔以外にも、細部を拡大しての解説がセットで展示されている作品が何点かあった。 窓から何が覗いているとか、木に何が留まっているとか。 最初はそんなの見なくてもオリジナルを見れば良いと思っていたが、オリジナルを見たあとで解説を見ると、意外に見れて無いというか、見落としがあるのに気づく。 あれはあるのが正解なんだね。

展覧会グッズにバベルの塔のシフォンケーキがあったのだが、造形の手抜きが酷かった。 螺旋じゃなくて各層の積み重ねとか、この展覧会でそれは駄目だろ。 売店の人は 「有名どころに協力して作ってもらっているので、味は良いんですよ」 と言っていた。 「味は」 というあたり、形が駄目なことは自覚してるってことか。

タラ夫

展覧会の公式キャラクター。

石

上野公園の石像。 ちょっと怖い。