2017 07 09

堕ちたプリンセス

七夕飾り

風に揺れる高幡不動参道の七夕飾り。 近所の幼稚園や保育園の園児が書いた短冊がぶら下げてあるのだが、ここ数日の強風でそれなりの数が吹き飛ばされている。 そうして地に落ちた短冊が、翌日には拾われて、竹と柱の間に挟んであったりする。

願い事が書かれた短冊が地面に落ちて踏まれている様はなかなか切ないものがあるが、その願い事がいかにも幼児のたどたどしい字で書かれていたりすると、切なさもより一層だ。 そのまま見過ごせなくて、思わず拾ってしまう人もいるのだろう。

そんな感情的な理由じゃなくてもっと合理的な、例えば美観や安全への配慮から拾ったのかもしれないが、まあとにかく拾って、しかし竹にまた飾るのはちょっと面倒なので 「この方が飛ばされにくいから」 なんて自分に言い訳しながら、適当な隙間に挟んで終わりにしたのだ。

そんな、たぶん落ちて拾われて挟まれた短冊に書いてあった願い事。

プリンセスになりたい

プリンセスとして生まれてこなかったことはもうどうしようもないが、だからもうなれないってこともないんだよな。 例えば、親がどこかの王になるとか、自分がどこかの王子と結婚するとか。 幼女の夢なら後者だろうか。 何年か前の七夕で キリンになりたい と書いてあるのを見たが、あれよりはよほど実現する可能性が高い。

しかし、子供の夢に突っ込むのも大人気ないが、現実のプリンセスを知ってもまだなりたいと思うかね。 幼女ならたぶん情報源はディズニー辺りだろうし、プリンセスって、きっと毎日贅沢に遊んで暮らすイメージなんだろう。 でも現実は厳しい。 御伽噺のような、王子様と結婚して幸せに暮らすとか無いから。

結婚する前から始まるストーカーじみた付き纏われの日々。 結婚してからは陰に陽に後継を産むことを求められ、ヒールが低くなっただけで妊娠かと騒がれる。 それでも笑顔で対応しなければいけない。 ストレスに負けて静養しようものなら税金泥棒扱い。

それがプリンセスの日々。 動物園のパンダの方がまだマシなレベル。 いや、好きでもない相手の子供を産まされたりしないだけ、パンダよりはマシなのか。 今の時代、政略結婚はなさそうだし。

そう考えると 「キリンになりたい」 はそこそこ妥当なラインなのかもしれないな。 自由こそ無いが、その代わりに安全は保障され、注目を浴びるストレスはパンダやライオンが引き受けてくれるのだから。

可もなく不可もなくの顔立ちなのに、ちょっとマニアの入った夫からは美女扱い。 外に出すのは心配だし、その分自分が稼ぐからと専業主婦を望まれ、実際そこそこ稼いでくるのでそこそこ余裕のある暮らし。 少々退屈ではあるが。

そんな感じがキリン的な人生だろうか。 まあ、そんな意味を込めて 「キリンになりたい」 なんて短冊に書いたとは思えないし、そんなことを考えている幼児はちょっと嫌だが。 そういえば麒麟児なんて言葉もあったな。 もうすっかり死語だが。