灰色の雪
「スキーはいつにする?」
満員電車のドアが開いた瞬間に聞こえてきた、若い女の声。
「クリスマスの前には、一回行きたいね」
どろどろとドアから押し出されながら、遠慮のない声で話していた。
ドアのすぐ横に置いてあった紙袋が、降りようとしていたその女の足にあたって、電車とホームの隙間に落ちた。 女は、落ちた紙袋をちらっと見て、そのまま行ってしまった。
電車に乗るときに見てみたら、下に落ちた紙袋から、残飯やカップラーメンのカップなどがこぼれていた。
「なぁんだ、ゴミか」
女の態度にちょっとだけ納得した。
電車に乗ったら、ドアの横にゴミ袋が置いてあった。 ちゃんと 「ゴミ袋」 って書いてある、東京都指定の半透明ゴミ袋。 透けて見える中身は、さっきの紙袋と大体同じようなもの。
電車が動き出してから、ドアのすぐ横に座っていた人が、そのゴミ袋からパンの耳を取り出して食った。 それまで人の陰で見えなかったのだが、いかにもホームレスの汚い爺さんだった。 俺が、そして多分さっきの女も、ゴミだと思っていたものは、この爺さんの食料だった。
帰り道。 コンビニでちょっと立ち読みして、弁当を買って、外に出たら雪が降っていた。 この冬最初の雪を見て 「寒い」 としか思わないのは、あの女と爺さんのどちらに近いだろうか? なんて考えていた。