蝉スタンピード

日本の蝉の幼虫生活は長くて6年ぐらいだが、アメリカには羽化までに13年や17年もかける種類がいる。 その長い周期が重なるのが今年で、大発生が予測されているのだとか。 毎日新聞から。

米国の中西部から南東部で初夏にかけ、1兆匹を超すセミが大量発生すると専門家が予測している。 13年と17年ごとに地上に出てくる 「周期ゼミ」 の二つの集団が羽化するタイミングが221年ぶりに重なるためだ。 米メディアは、英語でセミを意味する 「シケイダ」 と終末戦争を指す 「アルマゲドン」 を組み合わせた 「シケイダゲドン」 という造語を使い、迫り来る神秘の自然現象に注目している。

名前の通り、13年蝉は13年周期で、17年蝉は17年周期で、羽化して地上で活動する。 その周期からまとめて素数蝉とも言われる。 どちらも、周期じゃない年はほぼ見かけないそうだ。

日本の蝉、例えば油蝉なら4〜5年で羽化する。 これだって昆虫としてはかなり長い方だが、しかし素数蝉のような空白期間は無い。 きっちり毎年、同じように見ることができる。 発生数に波を感じない。

この違いは何なのか。

仮に油蝉の真祖がいたとする。 一匹だと交尾も産卵も無いので、ペアを考える。 油蝉のアダムとイブだ。 こいつらが交尾して産卵する。

真祖が産卵して以降、何年目で羽化が観測されるか、羽化する蝉の血統と合わせて表にしてみた。

年後 羽化
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※ 世代 : 羽化までの年数 - 先祖(再帰的表現)

地上で油蝉が見られないのは、1年目から3年目、6年目から7年目、そして11年目。 12年目以降は毎年蝉が羽化する。

12年目までは、4年組と5年組が地上で出会うことはない。 これは先鋭化として働く。 4年組同士からの次世代は、4年組がより多く発生するだろう。 5年組も同様。

しかし13年目以降は4年組と5年組が出会ってしまうため、先鋭化はここで終わり。 これ以降は交雑により、4年組と5年組は大体同じ程度の発生割合になっていくだろう。

こうして毎年普通に油蝉が見られることになるのだな。

素数蝉も同様で、やがて毎年に平準化されるはず。 羽化までの年数は圧倒的に長いが、歴史も長いのだから。 なのに何故、素数蝉は素数周期であり続けるのか。

で、 検索してみたら、思わぬところで答えを見つけた。 tenki.jp から。

氷河期を生き残るために、周期が長くなった素数ゼミ

素数ゼミは17年または13年ごとに北米に一斉に発生するわけではなく、ある地域の素数ゼミだけが、その地域だけで、17年あるいは13年という決まった周期で発生します。 そして、発生する年は地域ごとにずれているので、アメリカ中が一斉にセミだらけになることはありません。 普通のセミよりも長い間地中で暮らしますが、その暮らしぶりはほかのセミとなんら変わりなく地中で脱皮を繰り返しますが、地中にいる期間が極端に長いのと、ぴったり17年と13年で出てくるところが不思議です。 その謎を解くには、地球の歴史を見なければなりません。

地球にセミが登場したのは2億年以上も前です。 そして時代を一気に下り、おそよ200万年前。 当時は氷河時代で、すでに人類の祖先もあらわれていました。 寒さは生き物たちにとって過酷な環境となりました。 気温が低くなればなるほど、地中のセミの成長のスピードがどんどん遅くなっていき、これが、10年以上もの長い間を地中で暮らすことになった理由とされています。

しかし、寒い時代にやっと地上へ出たものの、交尾の相手が近くにいなければ、子孫を残すことはできません。 氷に覆われた氷河時代、素数ゼミはどうやって絶滅を回避したのでしょう。

狭い範囲で大発生し、子孫を残す。生き残りのための進化

セミ以外にも、多くの生き物が絶滅に追いやられた氷河期。 しかし北米には、盆地や暖流のそばではあまり気温が下がらないところがあったため、そんな“避難所”でセミはかろうじて生き残りました。 とはいえ、気温が圧倒的に低いので、セミは、北部では14~18年、南部では12~15年もの長い間を地中で過ごすようになりました。

そんなノアの方舟のような“避難所”が北米にいくつもできました。 しかし、寒い時代にやっと地上へ出たものの、交尾の相手が近くにいなければ、子孫を残すことはできません。 “避難所”のような狭い範囲では、違う年にバラバラと羽化して子孫を残すよりは、同じ年に一斉に羽化して交尾・産卵して子孫を残すほうが効率的です。

こうして、北米のあちらこちらで、同じ場所に同じ種類のセミが同じ年に大発生するようになりました。

なぜ17年と13年周期なのか? 12年や15年ではダメなのか? その秘密は「最小公倍数」

こうやって、狭い範囲で一斉に発生することで生き残ったセミたち。 しかし、なぜ、17年と13年という 「半端」 な周期のセミだけが生き残ったのでしょう。 その秘密は 「最小公倍数」 にあります。 素数同士だと、最小公倍数が素数でない数よりも大きくなるからです。

氷河期を生き延びた“避難所”のセミの周期は、当時は北部では14~18年、南部では12~15年でした。 19年以上だと地中にいる期間が長すぎるので、18年が限界だったようです。

たとえばある年、種類が同じで周期だけが違う15年と18年のセミがいっしょに出て、子どもをつくったとします。 15年後に15年ゼミが、18年後に18年ゼミが地上に出てみたら、ほかの周期のセミはいないので、以前よりもずいぶんと数が減ってしまっています。 さらに、15年ゼミと18年ゼミで交雑すると、その子の周期はどうなるのでしょう。 16年だったり17年だったりするかもしれません。 このように、たまたま15年ゼミと18年ゼミが出会ってしまうと、何万年もかけてどちらのセミも数が減り、やがて絶滅してしまうのです。

15と18の最小公倍数は90です。 つまり、15年と18年の場合は90年ごとに交雑する機会があります。 一見すると、交雑すればするほど生き延びるような気がしますが、しかし、交雑の回数が多ければ多いほど、周期が乱れ、先に絶滅してしまうのです。

特定の年に集中しないでばらけながら世代を重ねると、周期が長い場合、マッチングの機会が減ってしまうってことか。

油蝉のように4〜5年だと、ばらけることによる個体数の減少が効き始める前に、他の周期の合流で数が補われる。 僅か13年の3世代で。 そして交雑の発生もマッチングの機会の増加に効く。 しかし周期が長いと、ばらけたら先細るだけだと。

因みに蝉の成長に時間がかかるのは、食事のせいだったりする。

幼虫は地中で木の根に針状の口吻を刺して樹液を吸っている。 この時、導管から吸い込んでいるので、得られるのはほぼ水。 栄養価は低い。 そりゃ成長しないだろ。

まずは食事から見直してはどうか。