夏のかほりと古伊万里
渋谷駅が…
と毎回愚痴っているが、なんかだんだん慣れてきた。 毎日通勤で乗り換えるならもっと違う次元の愚痴になるだろうが、たまにだし、急ぐ訳でもないし。 あの中を歩くのをダンジョンデートだと思えば、全然悪くない。
ということで、よく展覧会に付き合ってくれるお嬢さんと、今日は郷さくら美術館と戸栗美術館に行ってきた。
郷さくら美術館は現在 夏のかほり -にほんがをみる- と 桜百景 vol.10 を開催中。 季節に合った涼しげな絵がたくさん展示されていた。 空調が効いて冷んやりしている中で大きな風景画を見ていると、ちょっと避暑地に来た気分になるな。
良い雰囲気のものをいくつか挙げておこう。
- 序曲
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重壮な石造りの建築物を見上げる形なのに重苦しさがないのは、描き方のせいだろうか。 デジタル処理をしたような筆使いが新鮮だった。
- 涼夕
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群れ咲く菖蒲の透明感が良い。 白い花弁は、塗り分けているのか、塗り重ねているのか。
- 光響
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薄暗がりに浮かび上がる金色が美しい。 作者のコメントには道とあるが、俺の目には崖に見える。
近くで見ると、盛り上がった金色の縁に光が反射してちょっと見にくいのが惜しい。 距離によって雰囲気が変わるのは光のせいだろうか。
今日は日本画で使用される絵の具の説明もあった。 説明の資料は子供向けっぽい。 展覧会のサブタイトルが全部平仮名で 「にほんがをみる」 となっているのも、たぶん子供を意識したのだろう。 俺はこの美術館で子供を見たことがないが。
説明は子供向けだが、大人も十分楽しめる。
西洋由来の絵と区別するために日本画といっているが、これが日本画という明確な定義はなく、強いて言えば岩絵の具を使うこと
と、特に岩絵の具について詳しく、原料の鉱物と生成した絵の具とが数種類セットで展示されていたのだが、それらの絵の具が綺麗だった。
特に青。
減色混合なので、塗ってしまうとどうしても濁りがでてしまうのが絵の具。 日本画でも西洋画でも絵を見て青が綺麗だと思うことはよくあるが、塗られる前の純粋な青ってこんなに綺麗だったんだね。
この郷さくら美術館では絵とセットで画家本人のコメントがあるものが多いのだが、これが連れのお嬢さんには好評だった。 コメントが良い人そうなのが尚良しとのこと。 学芸員の若干酔った解説にうんざり気味の彼女にとって、画家本人のコメントは新鮮なんだろう。 まあ俺は、そんな解説を読んで 「ねぇちょっと、これってどうなの?」 と言ってくるのも悪くないと思ってるのだが。
郷さくら美術館を出て昼食をとった後は渋谷の戸栗美術館へ。
戸栗美術館は 17世紀の古伊万里 -逸品再発見I- を開催中。
いつも、と言っても今日が3回目で語れるほど多く来ている訳ではないのだが、俺が来た時はいつも展示はほぼ歴史の順。 陶芸品は、製法や彩色の変化が時代に綺麗に沿うことが多いようで、歴史の順に並べるのが解説にも都合が良いらしい。
ちなみに、歴史の順は進化ばかりではない。 釉薬や彩色の技法は、天才の一代限りで失われることもあるし、幕府の倹約令で制限されているうちに失伝することもある。
で、解説。 彩色の解説では、およそこんなことが書いてあった。
青と赤とでは塗るタイミングが違う。 このために強度も違う。 染付けの青は、まず青で彩色してその上に釉薬をかけるので、模様は厚くコーティングされた状態となり丈夫。 これに対して赤は、釉薬の上に盛られている状態なので脆く欠けやすい。
「赤はちょっとしたことで欠けちゃう」 と言うお嬢さんに 「それは使い方が雑なのでは?」 なんて返していたのだが、本当に脆いものだったんだね。 ごめんなさい。
いくつか印象に残ったものをあげておこう。
- 白磁 桔梗型向付
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いかにも白磁のセット品。 綺麗だった。 色も形も。 今日来ていた人たちの間でも、これは人気だったらしい。
- 染付 孔雀型香合
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形もいいし、染付の模様も細かいし、全体的にとても良い出来なのだが、残念なのはどう見ても孔雀じゃないこと。 むしろ鶏。
- 染付 竹文皿
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大胆な構図の白抜きの竹。 青が綺麗。 以前見に来た鍋島焼展でも展示されていたと思う。
ここにあるような皿や器に盛り付けたら、スーパーの惣菜もぐっと美味しく感じる気がする。 もちろん皿で味が変わる訳はないのだが、プラシーボ効果はきっと絶大だ。
味と言えば、ふりかけを貰った。 サルカニ合戦とか、子供の頃によく食べていたのだが、自宅の近所で売っているのを見たことがない。 が、お嬢さんの近所の店では常設だそうで、買ってきてくれた。 ふりかけは割と何でも好きなのだが、これは思い出補正でより美味しく感じそうだ。 感謝。