蝉バイオハザード
素数蝉の話をもう一つ。 CNN News から。
今年の春は、10年以上も土の中にいたセミが何十億匹も同時にはい出す大発生が予想される。 樹上で大きな声で鳴き、メスを呼び寄せるオスのセミ。 ところが中には病菌に体を乗っ取られ、ゾンビのように操られて菌をまき散らすセミもいる。
この病菌はセミの生殖器を破壊して腹部を病菌の胞子に入れ替え、そのセミを操って盛んに交尾させる。 こうして 「死のソルトシェイカー」(研究者) と化したセミがさらに病菌をまき散らす現象は、まるでホラー映画そのものだ。 しかしこの病菌 「マッソスポラ」 に関する限り、 「事実の方がSFよりもはるかに奇異」 だと米コネティカット大学のジョン・クーリー准教授は解説する。
周期ゼミは木の枝で産卵し、孵化した幼虫は地面に落ちて土にもぐる。 種によって13~17年間、樹液を吸いながら地中で過ごし、成虫になる日が近づくとはい出してくる。 しかし、マッソスポラに感染するのが土にもぐる時なのか地中から出た時なのか、あるいはどのような仕組みで感染するのかも分かっていない。
セミを操る病菌マッソスポラ
セミは胞子が体内に入り込んだ瞬間から病菌に操られる。 感染したセミそれぞれの腹部で病菌の胞子が大量に蓄積され、やがて生殖器を含むセミの下腹部が脱落。 生殖器と腹部があった場所に、白い胞子の塊が露出して見えるようになる。 「まるでチョークの粉の中に落としたドロップが、セミの後ろにくっついているように見える」 とウェストバージニア大学のマット・カッソン准教授は言う。
セミはこの状態になっても盛んに交尾しようとする。 病菌に操られて性欲が異常に亢進したセミを、カッソン氏らは 「ハイパーセクシュアル」 状態と形容。 感染したオスは交尾相手のメスを盛んに呼び寄せながら、同時に行動を変えてオスもおびき寄せる。 健康なメスのセミは羽ばたきでオスを誘う。 ところがマッソスポラに感染したセミは、オスもメスも羽ばたいてオスをおびき寄せ、相手を感染させてしまう。
しかも感染したセミが病菌をまき散らす手段は交尾だけではない。
「周期ゼミの生殖器は連結式だ。 脱落すると裂ける。 つまり、別のセミの生殖器をくっつけて歩き回るセミがいる」(クーリー氏)
感染したセミは、病菌の胞子が裂けると下腹部がないまま飛び回り、茶色い胞子の雨を降らせる 「死のソルトシェイカー」(カッソン氏) と化す。 この空飛ぶソルトシェイカーがまき散らした胞子が次世代のセミを病菌に感染させ、10年以上たって地面からはい出した感染ゼミが、同じことを繰り返す。
〜中略〜
なお、セミは食用にもなるが、マッソスポラに感染したセミをたとえ人や犬が食べたとしても感染することはないという。 しかもマッソスポラは13年周期と17年周期のセミにしか感染できず、人がゾンビにされることは恐らくないだろうとカッソン氏は言う。
感染するタイミングが、孵化した幼虫が土に潜る時か、羽化するために地上に出てくる時か、どちらであってもマッソスポラ自体の繁殖周期も13年または17年。 菌類なら、毎年地上に出て自然の変化に晒された方が、変化に適応して進化していく可能性も高いんじゃないかと思うのだが。 何故、そんな長い周期に付き合うのか。
ちょっと調べてみたが、どうして素数蝉なのかの説明は見つからなかった。 見つかったのは、マッソスポラにも何種類かあって、それぞれ寄生する蝉が決まっているらしいこと。 日本では、ニイニイゼミの感染事例が、1946年と2020年とで2件報告されていること。
日本での感染事例が1946年と2020年のニイニイゼミの2件だけって、外国から紛れ込んだ蝉を介して一時的に感染したけど、結局定着できなかったってことだよな。 菌類には良さそうな高温多湿が駄目だったのだろうか。 或いは環境の良さ故のライバルの存在か。 例えば納豆菌に負けたとか。
素数蝉が13年や17年に収束してしまったのにも、マッソスポラの後押しがあったのかもしれないな。
非素期組の感染は、元々少ないマッチングの相手を更に減らしてしまうだろう。
逆にたくさんいる素数組の中に
ハイパーセクシュアル
が混ざると、周囲を盛り上げて、或いは危機感を煽って、繁殖行動を促進するかもしれない。
ところで13年や17年という時間は、蝉にとってはどうなんだろう。 そして羽化とは。
利己的な遺伝子的には、羽化はきっと待ち望んだ状態変化。 だから幼虫時代は長く感じるだろうし、成虫になってからの時間は短いだろう。 ずっと焦りながら交尾の相手を探して過ごすのだ。
でも10年以上も幼虫やって羽化して2週間程度で死ぬとか、普通に考えると幼虫が通常状態で成虫が異常状態だよな。 であれば、羽化は、スローライフはここまでと覚悟を決める終活の第一歩。 幼虫時代は確かに長かったかもしれないが、それでも、できれば、このままもっと続けたかった。 そう思ってしまうかもしれない。
羽化してからは煩い程に鳴く蝉だが、幼虫同士はコミュニケーション取ってるのだろうか。 取ってそうだよな。 まだ鳴けないから爪で木を削って音を出すとか、何らかの方法で。
で、羽化の時、違う周期の素数蝉に 「今まで世話になったな。 そろそろ行くよ」 と、挨拶したりするのだ。
同じ周期の素数蝉は一斉に羽化するので、挨拶も 「地上でまた会おう」 とか。
仲の良いオスとメスなら、挨拶じゃなくて約束かもしれない。
「上に行ったら、俺はお前のためだけに歌っているから」
そんな言葉を信じて、探して、やっと見つけたら…
「あら、遅かったのね。 待ち切れなくてもうこんなになっちゃったけど、良いわよね ♥」
…と、マッソスポラに感染した胞子まみれの腹を蠢かせていたりするのだ。 そしてハイパーセクシュアル。
地震
愛媛県の南部と高知県の西部で震度6弱の地震。