蟻よさらば
構内のコンビニで弁当を買って事務所に戻る途中のこと。 ふと足下を見ると、尺取り虫が歩いていた。 ちょっと暑いぐらいの陽射しの中、数歩移動しては上体を持ち上げて上を向いてゆらゆら揺れて、また数歩移動を繰り返していた。
何か探してるんだろうか。
尺取り虫が見上げているのと同じ方向を見上げてみれば、そこにあるのは桜の木。 そして青い空。
空?
こいつが目指しているのが空に至る道だとしたらどうだろう。 尺取り虫は尺蛾の幼虫で、このまま無事成長すれば羽を得て空を飛ぶことが出来る。 そのことを知っているのだろうか。 知らずにただ空を目指しているのか、知ってはいるが待ちきれないのか。 まあ、無事に成虫になれるのはごく少数だし、待ちきれないのもしょうがないよなぁ。
なんてことを思いながら視線を足下に戻すと、一匹の蟻が尺取り虫に接近中だった。
芋虫が生きたまま蟻の巣に運ばれるのは珍しいことではない。 この蟻も、尺取り虫をいい餌だと思ったのだろう。 後ろから接近してきて、くるりと尺取り虫の周囲を一周して、また後ろに回って尺取り虫の体に取り付いたのだが。
尺取り虫は上体を捻って背中の蟻を前足で掴むと、体を戻す勢いを利用して凄いスピードで放り投げた。
投げられた蟻はそのまま逃走。
蟻に目を付けられた時点でもう終了だと思っていたので、尺取り虫がこんな反撃をすることに心底驚いた。 まあ、蟻の基本は集団での攻撃だし、1対1なら体格差は圧倒的なんだけど、でも尺取り虫だからね。 蟻の大顎で挟まれてヨジヨジ身悶えしながら運ばれて行くだけかと思ってたのに、まさか投げ飛ばすとは。 それもあんなに激しく。
この後、さっきの蟻が仲間を連れて戻ってきて、結局は餌にされてしまうのかもしれない。 でも、一度は確かに勝ったのだ。
そう思うと、なんか尺取り虫が目指しているのも空よりもむしろ天じゃないかって気がしてきた。 探しているのは、きっと 「俺より強い奴」 なのだ。
そんな尺取り虫に教えてやりたい。 ハワイには肉食に進化した尺取り虫がいることを。